カサンドラ症候群の症状や原因について解説
診断や治療方法は?
カサンドラ症候群は、家族やパートナーがアスペルガー症候群であるため、うまくコミュニケーション等がとれず、心的ストレスがかかることで不安障害や抑うつ状態といった症状が表れている状態のことをいいます。
今回は、カサンドラ症候群のある方の症状の特徴や治療・対処法、どのように向き合っていけばいいのか、などについて詳しく解説していきます。
カサンドラ症候群とは?
カサンドラ症候群とは、パートナーあるいは家族など身近にいる人がアスペルガー症候群※のため、適切な意思疎通や関係性を築けずに、その心的ストレスから不安障害や抑うつ状態といった症状が起きている状態を指す言葉です。
※現在では、自閉症やアスペルガー症候群などを含む「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名に統合されています。
カサンドラ症候群は、病院で診断の際に用いられることもある精神疾患の診断基準「DMS-5」(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)には記載がなく、正式な疾患名ではありません。
また、カサンドラ症候群以外にも、「カサンドラ情動剥奪障害」や「カサンドラ状態」と呼ばれることもあります。
カサンドラ症候群の由来
カサンドラとは、ギリシャ神話に登場するトロイの王女の名前です。
カサンドラは予言の力がありましたが、太陽神アポロンの愛を拒絶したために、怒り狂ったアポロンから「誰にも予知能力を信じてもらえない」呪いをかけられた、という話があります。
このようなカサンドラの境遇と「身近なパートナーとの関係性に困難や辛さを感じ、周りからもなかなか理解してもらえない状態」を重ねて、「カサンドラ症候群」と呼ばれるようになりました。
カサンドラ症候群の原因
「パートナーや家族等でASDのある方と接することで生じる心的ストレスの積み重ね、また、当人の苦しみがパートナーや周囲の人に理解されず、孤立した状態に置かれること」がカサンドラ症候群の大きな原因であると考えられています。
ASDには以下のような特徴があります。
- 周りとのコミュニケーションに困難を感じる
相手の気持ちを考えたり、その場の空気を読むといったことに困難を感じ、会話中に意図せず不適切な表現を使ってしまうことがある。 - 物事へ強いこだわりや興味を持つ
一度興味を持ったものに対して、時間を忘れるほど熱中することがあり。反対に、興味のないものに対しては実行することに困難や苦痛を感じることがある。
そのため日常生活における行動や習慣について、自分で決めたルールにこだわり、パターン(ルーティン)化しやすくなることや、反対にいつもと違うパターンで行動することや咄嗟の行動について、困難や苦痛を感じることがあります。
パートナーの方は、このような特徴や症状を理解した上で、接している方が多くいらっしゃいます。
パートナーとうまくコミュニケーションが取れないことや、周囲の人に相談してもなかなか理解してもらえないために、悩みを一人で抱えることもあります。
このような期間が長い間続くことで、精神的な負担が徐々に重なり、不安障害や抑うつといった症状が表れることがあります。
カサンドラ症候群の症状は?
カサンドラ症候群の症状は、大きく「身体的症状」と「精神的症状」の2つに分けられます。
<身体面にあらわれるカサンドラ症候群の症状>
- 不眠
- 頭痛・偏頭痛
- 体重の増減
- 自律神経失調症 など
<精神面にあらわれるカサンドラ症候群の症状>
- 抑うつ状態
- パニック障害
- 自己評価の低下
- 孤独感・孤立感を感じる
- 情緒不安定
- 自己喪失感
- 罪悪感
- 無気力 など
人により、あらわれる症状には個人差があります。
カサンドラ症候群になりやすい人の傾向
カサンドラ症候群になりやすいといわれている人の一例は下記の通りです。
- 責任感の強い人
- まじめな人
- 完璧主義な人
- 我慢強い人
- 几帳面な人
- 面倒見の良い人
- ストレス発散が苦手な人
- 自分を責めてしまうことが多い人
例えば、ASDのあるパートナーが不適切な発言をした場合でも、怒ったり、指摘したりせず我慢を続けることで、精神的ストレスが溜まっていき、カサンドラ症候群の症状が表れる場合があります。
もちろん他にも要因がありますので、性格だけでカサンドラ症候群になるわけではありません。
カサンドラ症候群の治療・対処法
ここでは、カサンドラ症候群に悩む方に考えてほしい対処法について、解説します。
カサンドラ症候群の治療・対処法を考える上で大切なことは「お互いに理解し合うこと」です。
また、カサンドラ症候群による抑うつ気分や頭痛、不眠などの症状については、お薬による治療(薬物治療)などの対処療法で、症状を緩和させるという方法もあります。
1. お互いに発達障害について理解を深める
ASDのあるパートナーと良好な関係を築く上で、大切なポイントが「お互いに発達障害について理解を深める」ことです。
パートナーによっては、自身がASDであることに気付いていないケースがあります。
自覚のない相手に対して、発達障害の専門外来の受診や通院を強要してしまうと、より関係性が悪化してしまう可能性があります。
まずは、どのような特性や困りごと、行き違いなどがあるのかを、お互いに理解し合い、ゆっくりと共有していくところから始めましょう。
2.生活上のルールを決める
お互いに生活する上で、例えば、「話すときはお互いに否定せずにしっかりと話を聞く」など、不満やストレスを感じる部分については、あらかじめルールを決めておくことで事前にトラブルを回避し、両者の精神的な負担を減らすことができるかもしれません。
また、お互いの行動の理由等について話し合い、理解を深めることで、相手を尊重することにつながる可能性が高まります。
3.自分自身だけで抱え込まない
一人で抱え込み続けることで、より心的ストレスがかかり症状が悪化してしまう可能性があります。
可能であれば、身内や信頼のおける知人など、自分の話を肯定的に受け止めてくれる人に、相談してみると良いでしょう。
一人で抱え込むよりも、周りと気持ちを共有することで、気が楽になり、いくらか精神的負担を減らすことができる可能性があります。
<身近な人で相談できる人がいない場合>
周りに相談できる相手がなかなかいないという方は、カサンドラ症候群について相談できる専門機関を利用するのも良いでしょう。
例えば、ASDについて理解や知見のある発達障害者支援センターや発達障害の専門外来をもつ精神科で相談することで、パートナーの行動や疑問・不満について解消するきっかけとなることがあります。
また、お互いにASDについて話し合える段階であれば、二人で相談しに行くのも良いでしょう。
ASDに関する専門的な知見を持つ人に相談することで、適切な距離感やお互いの付き合い方について有効なアドバイスをもらうことができます。
4.家族会(自助グループ)を活用する
自助グループとは、同じ問題を抱える当事者同士が集まり、相互理解や支援をしあうグループのことです。
パートナーがASDで、同じような悩みを抱えている人同士が集まり、当事者にしか分からない想い・経験を話し合い、また、どのように困難を乗り越えられたのかという成功体験を共有することで、自信の問題解決の参考になるかもしれません。
自助グループの多くは、少人数で運営されています。
全日本バリアフリー推進協議会の「全国発達障害家族会」はそれにあたります。
お悩みの方を救えるように寄り添って活動しています。
多くのみなさんに参加くださり、話をして楽になっていって欲しいです。
5.ときには、休むことも大切
毎日が辛く、苦痛を感じる状態が続く場合、一旦休んでみることも必要かもしれません。
時には、パートナーと関わる機会を減らし、適切な距離感について考えることも大切です。
これからのパートナーとの関わり方について、ゆっくりと落ち着いて考えてみると良いでしょう。
カサンドラ症候群のまとめ
カサンドラ症候群の症状を抑え、パートナーと良好的な関係を築いていくには、お互いのこと、病気のことを理解し合うことが大切です。
身近な人でASDのある人がおり、精神的ストレスや辛さを感じている方は、一人で抱え込むことを避け、身近に相談できる相手がいない場合は、発達障害者支援センターや専門外来などの専門家に相談したり、同じ悩みを抱える人が集まる全国発達障害家族会に参加しましょう。
カサンドラ症候群のある方、ASDのある方、お互いに様々な困難や辛さを抱えていることに違いはありません。
お互いにより良い関係性が築けるよう、ゆっくり落ち着いて理解を深め合うことが大切です。